せんだい演劇工房10-Box

仙台舞台芸術フォーラム

方丈の海2021プロジェクト『方丈の海』アフタートーク

登壇者:渡部ギュウ、大信ペリカン、野々下孝、本田椋

 

『方丈の海』再再演への思い

渡部 まずペリカンさんから今日の上演の感想をいただきたいと思います。

 

大信 みなさんお疲れさまでした。すごく面白かったです。「憎しみと欲望をこの場所に持ち込むな」という言葉。うん、いいなと思って。私自身も脚本を書くんですが、震災を扱った作品を書くのって難しいんですよね。演劇を創る時ってなんらかの結論を出さないと、お芝居として面白くなくなってしまうので。石川さんが震災の翌年に震災を扱った作品を書いて、この結論に持ってきたところがすごいなと思って観てました。10年後を舞台にするという着眼点もすごいなと思ったし、もちろんお芝居としてすごく面白くて。喪失の物語じゃないですか。みんなそれぞれ何かを喪失していて。岡田さんは目が見えなくなっているし、それぞれが津波で大切な人を亡くしていたりとか、故郷を失っていたりとか、記憶を失っていたりとか、そういう人が集まることでどんなドラマが生まれて、どんな結論が導けるのかという戦いだったと思うんですけど、それがスッと入ってくるというか。そして野々下さん、本田くんはすごくいい味を出してました。

 

渡部 では野々下孝さんに、今回参加してみてどんな感じだったか一言いただきたいと思います。

 

野々下 やっぱり石川さんの作品であり、石川組の方々も役者として出演されている作品でもあり、再再演でもあるので、エポックメイキングな、照射距離が遠い作品にしたいなと思って。この公演は仙台舞台芸術フォーラムの一環でやっているので震災メモリアルの枠組みで見られると思うんですけど、このあと「座・高円寺」でやる時には、色眼鏡なくストレートに「面白い」と言ってもらえるように、間口を広く、どこまでも遠くに飛ぶような演劇を作ろうと思って、自分の役を掘り下げることでその方向性を示そうと思って取り組みました。

 

渡部 本田くんとは初めて舞台をご一緒しました。原作というわけではないんですが三島由紀夫さんの『豊饒の海』という長編小説があって、非常に難解で私は5ページくらいでギブアップしてまだ読めていないんですが、本田くんは全部読んで「たぶんこのネタはこれです」って教えてくれて。本当に考察力もあり、貪欲な俳優さんです。感想を一言お願いします。

 

本田 僕はギュウさんとやらせてもらったのも初めてでしたし、石川作品の中に立てたのも初めてで。震災当時は僕、大学生で、演劇部で一生懸命演劇をやっていて、石川さんにちょっと名前も覚えてもらって「今度一緒にやれたらいいね」なんてお声がけいただいたり、『方丈の海』の再演の時に1回オファーをいただいたんですけれども大学が忙しくて受けることができなくて。個人的な話になってしまうんですけれども、石川さんとの約束を10年越しに果たしたいなというところもあって参加しました。でもやってみると、よくわかんないなと(笑)「石川さんの作品はよくわからんぞ」と思いながら、毎日石川さんの遺した言葉と格闘する感じで。仙台公演は後半戦に突入しましたけど、東京に行ってもまた変わっていくと思うので、最後どういうところに行き着くのか、楽しみだなと思いながらやっています。

 

渡部 そうですよね、わかりにくいところがありますよね。関連するセリフというよりは、あまりにも論理的にロジックでしゃべっていくので、それを身体で埋めたり、ここがポイントだぞって押していかないと、何をしゃべっていいのかもわからなくなるし、何を伝えていいのかもわからなくなるので。でも僕が本田くんに指導させていただいたのは2箇所だけです。あとは自分の創意工夫でアプローチしておりました。初演、再演と出演したメンバーで今回も出演しているのは、絵永けいと横山真と佐々木久美子さんの3名だけなんですね。今回、キャスティングも任されて、最初、もと十月劇場とOCT/PASS(オクトパス)の人たちに声をかけてはいたんですが、途中から新しい人でやろうということにして。石川作品の魅力をできるだけ若手に体験していただきたいということで、再構成して演出させていただきました。ドラマとしても面白くしたいし、それだけでなく、役者、スタッフたちのこの10年の経験値を生かして、ちょっとはみ出すような演劇を作りたいということで、途中脱線するようなシーンも織り交ぜながら構成しました。

 

 

これからも東北で

(『方丈の海』 2021年3月 撮影:小田島万里)

渡部 では、みなさんお一人ずつ、今どんな状況なのかをお聞きしたいと思います。ペリカンさんは自分のアトリエを作っているんですよね。

 

大信 まさにこの作品に出てきた「岡田劇場」みたいな劇場を作りたくて、今、福島に小さなアトリエを作っています。去年から準備しているんですけど、新型コロナウィルスの状況がなかなか読めないのでいつ始めようかなというところはあるんですけど。何人かの有志で作ってはいるんですが、私が頑張らないとこのアトリエはいつまでも開かないなということに最近気づきまして(笑)今年はアトリエの開設と運営を頑張ってやっていきたいなと思っております。

 

渡部 作品創作の着眼点とか、今、興味があることはいかがでしょう。

 

大信 そうですね……あんまり無いんですけど(笑)有りものをやってみたいなと。最近の自分自身の興味でいくと、芝居芝居したものにすごく興味があって、藤山寛美とか見ています。そういうのをやりたいなと思っています。

 

渡部 現代演劇は社会のいろんな問題を扱っていくんですけれども、手触りを間違うと舞台に暴力や無残さしか上がらないというか、人の傷を開いてみせるような作品になる場合も多々あって。そこはやはり物語の力で、物語構造で、主人公が他者の力を借りながら問題を乗り越えていく姿を示さなければいけないかなと、そういう素朴なことが大事なんじゃないかという気がしています。コロナ禍で人恋しくなっているのかもしれません(笑) 野々下さんは現在どんなことを考えていらっしゃいますか?ARCTの代表でもありますが。

(『方丈の海』 2021年3月 撮影:小田島万里)

野々下 ARCTの現在は、震災直後にやっていたネットワーク体として活動する責務を下ろしまして、アウトリーチでワークショップをやっていく活動に落ち着いています。もう被災経験のない子どもたちも多くなっていますので、震災復興のためということではなく、日常にアートを持っていくことの価値がお母さんたちや子どもたちにも感じてもらえるような形でワークショップを開いていければと思っています。
作品創作に関しては、僕はギュウさんとちょっと違って、暴力的なものをやりたくてしょうがなくて(笑)とにかく傷を開きたいです。傷を開いて劇場で見せたくてしょうがないみたいな欲望があって、ただひたすらそれをやろうと。また5月に東京で公演をするんですけれども、それに向かって現在創作しております。

 

渡部 この演劇の多様性ね(笑)いろんな考え方でアプローチしていいんですよね。昨日、日本演出者協会の前の理事長の和田喜夫さんと電話でお話したんですが、仙台のみんなはこの10年間で非常に「日常と演劇」というのを考えて、自分の作品づくりプラス、どのジャンルの誰と関わるか、広がりを示す活動をしてるので、非常に頑張っている印象を受けていると言われました。他の都市ではできていないのが、なんで仙台はできるんだと。それはやっぱり、10-BOXがあることや街のサイズもあるし、そこへ震災があって、子育てと演劇とか、子どもたちと演劇とか、高齢の先輩たちと演劇とか、プロもアマチュアもなく幅広い視点で活動せざるを得なかったからかなと思います。いいことだと思います。ただやっぱり少数派なので、我々の活動がもっともっと広がっていくといいなと思って発信を続けていますので、これからも仙台演劇に注目していただければと思います。
本田くんは短距離男道ミサイルの代表ですが、どんな10年でしたか? これからどんな10年にしたいですか?

 

本田 短距離男道ミサイルは震災をきっかけに結成されたチームなので、これからも震災とともに歩んで行かざるをえないというか、そうなるのが自然な感じがしていて、節目節目で立ち止まって、振り返って作品を創るんだろうなと。作品性も東北に根ざしていけたらと思います。東北の芸能と出会うことが最近多くて。鹿踊りとか鬼剣舞だとか。劇団員の中にも鬼剣舞を習いに行くメンバーが出始めたんですけど。東北に伝わる話、東北の歴史をテーマにして、東北でしか作れない作品を発信していけたらと思っています。何か新しい、ネオ伝統芸能のようなものを作れたら。どんなものかまだわかりませんけれども、誰も見たことがない、しかしこれは東北でしか作れないというような舞台ジャンルを創作できたらと考えております。

(『方丈の海』 2021年3月 撮影:小田島万里)

渡部 この10年本当に頑張って、ツアー公演もしてましたね。キャンピングカーを借りて東北中を回って。

 

本田 1ヶ月で24〜25箇所くらい回りました(笑)

 

渡部 その『走れタカシ』は「若手演出家コンクール」でも最優秀賞を受賞しましたね。加藤隆さんていう役者が、どこから走ったんでしたっけ、渋谷かな? 

 

本田 新宿かな? 新宿から下北沢だったと思います。

 

渡部 開場した劇場のモニターに、主演のタカシくんが走ってくるのが映るんです。彼が劇場に着かないと芝居が始まらない。

 

本田 そうなんです、開演時間に間に合うように、まさにメロスが走ってくる。

 

渡部 『走れメロス』を下敷きにして、加藤くんという役者が福島で震災をどのように体験したかを半ドキュメンタリーでやる作品でした。

 

本田 毎日20kmくらい走って、膝を壊しましたね(笑)

 

渡部 最近は古典もやっているし、バカなことをやってるけど非常に頭のいい集団だってみんな言ってます。みんなで考えながら1本1本創っているところが劇団らしくてうらやましいなと思うところがあります。メンバーは同世代なんですか?

 

本田 そうですね。入れ替わったりもしていますが、近い世代になっています。

 

渡部 東京に場所を移したりしないですよね?(笑)

 

本田 多分しないと思います(笑)

 

渡部 ありがとうございました。震災から10年経って、こうして笑えるようにもなりました。作品の中で笑顔を出すことも不謹慎かな、なんて思った時期もありました。ペリカンさんの『キル兄にゃとU子さん』、先日の公演を拝見しましたが、いい芝居でしたね。シェルターの中に3人が閉じ込められているような、その中で抒情詩的なセリフを語っていく、ジャン・ジュネの『女中たち』みたいなね。いろんなことを考えるし感じる、面白い芝居でした。野々下さんのところも、最近はいろんな空間でやってますよね。短距離男道ミサイルも、今回の「方丈の海」に関わってくれたメンバーそれぞれが、今後もいろんなアイディアで東北の演劇界を盛り上げていきますので、どうぞ引き続き応援していただければと思います。本日はありがとうございました。

 

(『方丈の海』 2021年3月 撮影:小田島万里)

(2021年3月6日)

(構成・編集:谷津智里)